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石膏鉱山から始まった壁の革命・吉野石膏

開発の裏話や市場の展望などを話していただくシリーズの第1弾、今回は、 「壁の革命」と言われた石膏ボードによる工法を広め、 現在も業界ナンバーワンのシェアを誇る吉野石膏㈱の取締役営業統轄本部部長・神崎誠一氏に、石膏ボードの始まりや創業当時の様子についてお話を聞きました。

「医食住」 を支える石膏

建築現場で必ず見かけると言っても過言ではない「石膏ボード」。
この石膏ボードに使われている「石膏」が、医療や食料などにも使われていることはご存知でしょうか?
「医」では、骨折したときに巻くギプス。「ギプス」はドイツ語で「石膏」という意味で、ガーゼに石膏の粉を含ませてあり、患部を固定するのに使います。「食」では、豆腐を固めるのに石膏が使われています。また、暑い時期においしいビールも、石膏を添加して軟水を硬水に変えることで、「キレ」を出しているのです。そして「住」の分野では、当社の事業の柱ともなっている「石膏ボード」と「プラスター」に石膏が使われています。石膏は、まさに「医食住」すべてに使われている素材なのです。

海を渡った石膏ボ-ド

石膏の建築資材としての利用の歴史は古く、紀元前7000年にまでさかのぼります。石膏の利用が本格化したのは13世紀のヨーロッパで、焼き石膏に水を加えた「プラスター」が、石造りの王宮の内装を装飾するのに使われていました。17世紀に大量の移民が渡ったアメリカではログハウススタイルの木造住宅が主流で、防火性のある石膏プラスターを内装に厚く塗っていました。この「火で燃える木を燃えないもの(=石膏)で覆う」という発想から、アメリカのオーガスティン・サケットという人が1895年、石膏をボード状にした「石膏ボード(ジプサムボード)」のもととなるものを発明しました。これが工業的に生産されるようになったのが1902年のことでした。今でも、石膏ボードには「プラスターボード」と「ジプサムボード」の両方の呼び方が使われていますが、前者は欧州から、後者はアメリカから、それぞれ海を渡ってやってきたのです。

燃えない家を建てるという使命

ボードの天日乾燥 ときをほぼ同じくして、吉野石膏㈱の前身である吉野石膏製造所が1901年に創業。山形県の吉野鉱山で石膏原石の採掘を行っていたのが始まりです。今の社名は、発祥の地である「吉野村」の地名を冠したものなのです。
「石膏ボード」を日本に導入したのは、1922(大正11)年、初代社長の須藤永次氏で、初めはアメリカでつくられた石膏ボードを見よう見まねでつくったそうです。
当時はすべて手作業で、紙を敷いた木枠に石膏を流し込み、上から紙で挟みこんで、天日干ししていたと聞きます。 戦時中は工場ごと疎開していましたが、須藤永次社長は、終戦の日のその夜に石膏ボードの生産開始を命じたそうです。戦時中に家が火事で燃えるのを見て、「焼夷弾1発で何百戸も焼けるような、燃える家をつくらせてはダメだ」という思いを非常に強く持っていたそうで、これを自分のミッション(使命)のように感じていたのでしょう。

競争と量産なくして繁栄なし

創業社長 須藤永次氏 1947(昭和22年)、須藤永次社長は、「これからは燃えない建材を大量に普及させなくてはいけない。
普及させるためには、強力な競争会社をたくさんつくって切磋琢磨して、世の中に商品を広めていかなければいけない」と、ボード製造の技術を公開しました。須藤式タイガーボード製造機という機械をつくって、数社の技術者を集めて長期の研修会を開き、機械と技術を提供しました。「競争と量産なくして繁栄なし」という須藤永次社長の経営理念から、石膏ボードは広く知られるようになり、「ボード業界」ができ上がったわけです。

壁の革命

1955(昭和30)年ごろ、「YNプラスター」の開発により、「壁の革命」と言われる「ラス&プラスター工法」が開発されます。「ラス&プラスター工法」とは、塗壁の下地に石膏ラスボードを使い、その上に石膏プラスターを塗る湿式工法です。通常は数十分程度で硬化してしまう石膏に、硬化遅延剤を加えることで施工しやすくした「YNプラスター」の開発により、この工法が可能となったのです。「ラス&プラスター工法」の登場で、住宅の施工期間は格段に短くなりました。それまで主流だった土壁では、乾くまでに1~2ヵ月程度必要だったのが、1週間程度で乾くのですから、まさに「壁の革命」だったわけです。やがて日本は高度成長期を迎え、住宅を大量に、 かつ速く施工することが求められるようになります。加えて都市では、住宅の過密化が進み、火災が発生するたびに住宅の不燃化が叫ばれました。こうした時代の要請を背景に、壁に「石膏ボード」を用いた工法(乾式工法)や、集合住宅で石膏ボードを石膏系接着剤で貼り付ける「GL工法」が、内装工事の主流となってきました。

時代の要請に応えて

吉野石膏 虎ノ門ビル さらに時代が進んで、超高層建築や高層住宅が立ち並ぶようになると、建築物そのものの軽減や耐火性はもちろんのこと、高い遮音性が要求されるようになってきました。これを受けて、厚手の石膏ボード(21㎜、15㎜など)を組み合わせたさまざまな遮音性能を持つ工法が開発されました。これらの工法は、国土交通省(当時建設省)の認定を取得しており、取得した認定の要項どおりの「正しい施工」が要求されます。そのため、当社では施工業者の方への啓蒙活動や施工技術の研修会などを各地で行ってきました。戦後間もないころに行った「製品」を「技術」や「工法」と一緒に広めるというやり方が、ここにも強く受け継がれているわけです。昨年、東京都港区に「吉野石膏虎ノ門ビル」を建てました。これは、吉野石膏の持つ最新技術や情報を集めて、「未来への技術提供」を行う施設で、石膏製品の展示や遮音性能を比較できる設備のほか、施工実習室では施工技術の研修も行っています。

進化を続ける「古くて新しい素材」

石膏ボードの構成材料である石膏自体は、火力発電所や金属の製錬所から出る副産物を原料としています。また、もう一つの構成材料である紙は100%古新聞、古雑誌の再生紙です。まさにリサイクル素材の優等生と言えるわけです。加えて、内装材としての万能性を追求して防水性をもたせた「防水ボード」、表面硬度をもたせた「タイガースーパーハード」、そして柔剛性を持ち曲面加工も万能にさせた「タイガーグラスロック」などが開発され使用する部位が一層広まってきています。さらに、注目されているシックハウス対策には、ホルムアルデヒド吸収分解機能を持った「タイガーハイクリンボード」があります。古い歴史を持ち、燃えない家をつくるという強い思いから広まった石膏ボード。
この「古くて新しい素材」は、今も進化を続けています。

タイガー防水ボード

タイガー防水ボード表面の紙や、芯の石膏に防水加工を施した石膏ボードです。台所や洗面所などのタイル下地に使うことができます。

タイガーガラスブロック

タイガーガラスブロックガラス繊維を混入した石膏に、ガラス繊維不織布を伏せこんで柔軟性を持たせることで、曲面の施工を可能にしました。

タイガースーパーハード

タイガースーパーハード超硬質・高強度のタイガーボード。 床構成材にも使用することができます。

プロフィール
吉野石膏株式会社
創業1901(明治34)年、設立1937(昭和12)年、資本金6億円、事業石膏を原料とする製品や石膏の製造・販売、石膏原石の採掘・販売など